
今回お話を伺ったのは、3x3日本代表としてFIBA 3x3 アジアカップ2025、FIBA 3x3 ワールドカップ2025に出場し、「FIBA 3x3アジアカップ2026」への出場も決定した 井後健矢選手(SAGAMIHARA PROCESS)。大学卒業後にアメリカでの短期挑戦、スペイン留学、B3クラブでの練習生経験を経て3x3の道へ。2025年に日本代表に選出されるまでの歩みは、”エリートルート”とは異なるものでした。壁にぶつかるたびに”何が足りないのか”を問い続ける。その積み重ねが、現在のプレースタイルにつながっています。
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遠回りだったキャリア:ゴールから今を設計する力
ーまず初めに、自己紹介をお願いいたします。
井後健矢です。年齢は31歳、大阪府出身です。
高知中央高校を経て東京成徳大学へ進学しました。
大学卒業後はアメリカへの短期留学し、スペインで3年間の留学を経験しています。帰国後はBリーグのチームと3x3チームの両方で練習生としてプレーをし、5人制・3人制の両軸でキャリアを模索しました。
その後、本格的に3x3へと舞台を移し、複数チームで経験を重ねながら力を磨いてきました。現在はSAGAMIHARA PROCESSに所属しています。
ー井後さんのキャリアを拝見すると、非常にユニークで型にハマっていない印象を受けます。ご自身ではどう捉えていますか?
確かに、一般的にイメージされるような”エリートルート”ではありません。
中学時代はベンチにいる時間が長く、その悔しさをバネに高知の強豪高校へ進学しました。3年生でようやく試合に出られた時の達成感は今でも鮮明に覚えています。
その後、もっと広い世界を見てみたいと思いアメリカへ短期留学し、その後スペインでも3年間バスケットを学びました。帰国後も当時の「バスケキャリアの枠」に収まらず、5人制の活動もしながら、当時は今よりも選手数が少なかった3x3にも挑戦しました。常に”自分が成長できる環境”を求めて動いてきた結果、今の型にハマらないスタイルへ辿り着いたのだと感じています。
ー学生時代の「思うようにいかない時期」が今の井後さんの土台になっているのでしょうか。
そう思います。最初から選ばれる立場ではなかったからこそ、壁にぶつかった時に「環境や周囲のせい」にするのではなく、「自分に何が足りないのか」「どうしたらできるようになるのか」を逆算して考える習慣がつきました。 ”エリートルート”ではない、環境に恵まれているわけでもない私が自分で掴んだ経験があるからこそ、今の自分がつくれているとは思っています。
アメリカでの衝撃と、スペインで見つけた「戦術の美学」
ースペイン時代のお話を、詳しく聞かせてください。
スペイン留学の前に、アメリカに短期留学をしたことがあったんです。
現地のスポーツジムで行われていたピックアップゲームに参加しました。そこで対峙したのがGリーグの選手だったんです。ゴール下で身体をぶつけ合った瞬間、冗談抜きで吹き飛ばされました。(笑)
「この身体能力に長けている人たちが多くいるこの国で、同じ土俵で勝負はできない」と、その場で冷静に悟りました。
ーそこから、なぜスペインという選択肢が出てきたのですか?
きっかけは、スペインへのスポーツ留学に関わる方と繋がりがあった母の勧めです。紹介を通じてスペインへ渡ることを決断しました。
その環境の中で培われたのは、技術だけではありません。自分を知らない、日本人も非常に少ない環境の中で「いかにここで生きるか、自分を活かすか」を考える力が身につきました。具体的に言うと、状況を整理して最適解を導き出す思考や、自分を客観視する習慣ですね。
日本的な”上下関係”のコミュニケーションも少なく、みんなフラットなコミュニケーションでした。
その分、自分からコミュニケーションを積極的に取らないと何も教えてもらえません。素直にオープンマインドに。スペインで身に付けたコミュニケーションの取り方も、今の自分の土台となっています。

逆境からの転向。3x3こそが「自分を活かす場所」
ー帰国後、B3クラブの練習生を経験した後、3x3へ本格的に転向されていますが、そこに至るまでのお話を聞かせてください。
帰国後は、B3クラブの練習生として活動をしていました。並行して3x3チームの活動にも参加するようになったんですが、両方をトップコンディションでプレーし続けることが私にとっては想像以上に難しく、結果として、双方のチームと契約は終了することになります。
その後は、ご縁があったいくつかのチームでプレーさせてもらいました。
3x3の経験値が積み上がっていく中で、自分自身の適性や強みと改めて向き合う時間が増えていったんです。そのタイミングで入団したSAGAMIHARA PROCESSで、「3x3に本腰を入れよう」と覚悟を決めました。
3x3は、5人制以上に個人の瞬時の判断力とプレーの”解像度”が求められる競技です。
限られたスペースと時間の中で、常に最適解を探し続けなければならない。その競技特性は、自分がこれまで培ってきた”考える力”を最も発揮できる環境だと再認識し、その確信を持ってから迷いはなくなりました。
日本代表で突きつけられた「世界の壁」と「解像度」の差
ー2025年には、日本代表として世界大会を経験されます。世界トップクラスと対峙して感じたことを教えてください。
2025年のワールドカップやアジアカップでの経験は、とても衝撃的でした。
ナショナルチームを背負うという立場も、短期間でたくさん自分に変化をもたらしてくれたと思っています。
特に、アメリカのような強豪国は、「相手への適応スピード」が格別だと感じました。
タイムアウトを取らずとも、試合中にこちらのディフェンスのスタイルに対して即座に戦術を全員で修正してきます。それは個人の経験値なのか、チームの結束力なのかは分かりませんが、そのスピード感には圧倒されました。
日本は、1対1のスキルは世界と肩を並べる、もしくはそれ以上のレベルだと思います。
ただ、2対2・3対3においての戦い方のバリエーションは、世界の国からまだまだ学ぶことが多いなと感じましたね。
「10分間」という試合時間をどうデザインするか?その戦略の緻密さが世界のチームと戦うための肝になっているのではないでしょうか。世界の強豪チームは目の前の1プレーだけではなく、どのタイミングで何を仕掛けるのか、どの組み合わせを狙うのか、10分間の中で、自分たちの価値を最大限に活かす”戦略の解像度”が圧倒的に高いと感じました。
その経験を通して、私自身の向き合い方も変わりました。
「なぜそれをやるのか」「なぜその展開をつくるのか」を説明できないと、意味がないと感じるようになりました。ただ全力でプレーするだけではなく、「今、相手は何を守ろうとしているのか」「このズレは偶然か、意図的に作れるものか」と深く考えるようになりました。一挙手一投足すべてに意味が持てるようになると解像度が高い状態になるのではないかなと思います。
うまくいったことにも必ず理由はあります。なぜ成功したのかを整理し、次も再現できる状態にすることが大切です。世界との差を痛感したことで、自分の”考える解像度”を上げることに意識を向けるようになりました。
井後メソッド:ルールは「制限」ではなく「武器」
ー井後選手は相手の心理を読み取るような、独特のプレースタイルが印象的ですよね。そのスタイルはどのように培われたのでしょうか。
私は特別バスケが上手い選手ではなかった分、相手をよく観察するのが好きなんです。
相手の強みを発揮させない、というのはその観察するところから来ているかもしれませんね。(笑)
でも一番大切なのは、「ゲームのルールを理解すること」だと思っています。
ーそれはどういうことでしょうか?
Bリーガーの後輩に「ルールブックって読んだことありますか?」と聞かれたんです。
正直、それまでちゃんと読んだことはなかったんです。というか、周りに読んだ人はいなかったと思うんですよ。(笑)
でも、読んでみると見える世界が変わりました。
ルールってプレー中にやってはダメなことだけが書いてあるものだと思っていたんですが、読み込んでみると、どこまでが許容範囲か細かく決められているんですよね。
それからはディフェンスの当たり方も変わりましたし、接触の駆け引きや審判へのコミュニケーションの取り方も変わりました。ルールが自分のプレーを制限するものから、武器に変えられたのはこの時からだと思います。

自分の中で答えが出ないときは、素直に聞くことも大切
ーキャリアを重ねていくと、「自分の正解」が凝り固まってしまうケースもあると思います。井後選手は、壁にぶつかった時はどのように解決されているんでしょうか。
一人で考えても答えが出ないときは、トップランナーの方々に直接お話を聞きに行きます。3x3の戦い方がわからなくなったときは、日本代表経験のある方に直接DMを送って、教えてもらいに行きました。海外大会で負けたときには、パーソナルトレーニングをしているコーチに自ら連絡を取り、トレーニングのお願いをしました。
教えて頂いた通りにプレーをしたら、代表キャンプに呼ばれ、アジアカップのメンバーにも選ばれました。
あのとき動いていなかったら、今の自分はないと思っています。
成長するには、自分の頭で考えること。素直に人に聞くこと。そして行動を変えること。
シンプルだけど、それしかないと思っています。
次世代へ:なぜ学生こそ3x3をやるべきなのか
ーユース世代へのメッセージをお願いします。
学生こそ、3x3を経験するべきだと思っています。
5人制バスケットボールでは、スピードや役割の中でプレーすることが多いと思います。決められた戦術の中で、自分の強みを発揮できる場面も多いです。
でも3x3は違います。
常に全員がボールと状況に関わらなければならなくて、攻守の切り替えも一瞬です。誰かの判断を待っている時間はありません。
私が3x3を通して強く感じたのは、”解像度”の重要性です。
今、コートで何が起きているのか。どこにズレがあって、なぜそのプレーが有効なのか。そこを理解できていないと、3x3は成り立たない。
学生のうちに3x3を経験する意味は、そこにあります。
戦術をなぞるのではなく、自分で状況を理解して選択する力が身につく。
3x3は、その”考える力の解像度”を高めてくれる競技だと思っています。

SAGAMIHARA PROCESS
井後健矢(いごけんや)
1995年 大阪府出身
高知中央高等学校卒業後、東京成徳大学へ進学。アメリカへの短期留学およびスペインへ留学を経験し、複数クラブで練習生としてプレー。その後、3x3へ転向。
FIBA3×3ワールドカップ2025 日本代表
FIBA 3x3 Asia Cup 2025 日本代表
SAGAMIHARA PROCESS 公式チームサイト
https://sagamihara-process.com/#
SAGAMIHARA PROCESS 公式Instagram
https://www.instagram.com/sagamihara3x3/?hl=ja
SAGAMIHARA PROCESS 公式X
https://x.com/process_3x3

